2018/01/21 Original Y.Suzuki
冬に暖かく過ごす工夫として、「厚手のカーテンを床まで届くように設置する」といった取り組みがある。床まで届かなかった場合はどうなのか、プチプチシートや内窓とくらべてどの程度の断熱向上になるのか、モデル計算を行って確かめた。
計算では、熱貫流率(W/m2K)という値を主に用いている。1m2(平方メートル)あたり窓の中と外が1℃の温度差(絶対温度ではK)によって、何ワットのエネルギーが逃げていくのかを示している。この値が小さいほど、熱が逃げにくいことを意味する。窓本体の断熱性能については標準的な断熱性能がカタログに掲載されており、単板ガラス6.0W/m2K、複層ガラスで3.6W/m2K、Low-eガラスで1.6W/m2Kなどとなっている。サッシ2枚の掃き出し窓(3m2)で計算すると、室内20℃、外気温0℃の場合には、以前一般的だった単板ガラスでは 6×3×20=360Wのエネルギーが失われ、電気ストーブ半面くらいの熱を加え続けないと温度が維持できないことになる。これがLow-eガラスなら、1.6×3×20=96Wまで、4分の1程度まで下がることになり、熱貫流率が小さいことが省エネになる。ちなみに1枚の窓だけでこれだけ熱ロスがあり、家の暖房負荷を計算するためには、他の窓、壁、天井・床などを含めて、計算する必要がある。
窓を取り替えるのが本質的な対策であるが、工夫として取り組める方法として、カーテンや断熱シートの取り組みがある。カーテンの場合には、輻射熱を遮断し、窓面の表面温度を上げることに効果があがるものの、カーテンの上下に隙間がある場合には、窓面側の冷たい空気が流れ置いて床を伝ってくる「コールドドラフト」が生じてしまう。単純に布の熱貫流率だけでは評価はできない。
こうした疑問を明らかにするために、検討を行った。
熱伝導率λ (W/mK)
空気 : 0.024熱抵抗$ R (m^2K/W) $ = L(長さ)/λ
外側空気 : 0.11 ※空気層として2.5mm相当比重ρ ($kg/m^3$)
空気 : 1.29
比熱$Cp$ (J/kgK)
空気 : 1006
粘性係数μ (Pa/s)
空気 : 1.7E-5
窓とカーテンの間を平行平板とみなし、風速に応じて生じる圧力損失 $ P_1 $ を求めた。平行平板では、同断面積あたり円管の1/2の表面積となるため、圧力低下も1/2として計算を行った。
\[ P_1 = \frac{1}{2}λ\frac{L}{h}\frac{ρv^2}{2}\\ ここで、λ=\frac{64}{Re}、Re = \frac{ρvL}{μ} を代入して\\ \begin{align} P_1 &= \frac{32}{Re}\frac{Lρv^2}{h}\\ &= \frac{32μρv^2L}{ρvLh}\\ &= \frac{32μv}{h}\\ &= \frac{32μQ}{wh^2}\\ \end{align}\\ L_1:平板長さ(m) = 2h\\ w:平板幅(窓の幅)(m)\\ v:流速(m/s)\\ h:窓とカーテンの距離(m)\\ Q:窓とカーテンの間の流量(m3/s) = vwh\\ \]カーテンと窓のすき間の温度が低いことによる、室内との圧力差 $ P_2 $ を算出した。なお、室内温度と「窓とカーテンの間」の温度の差は、上下位置にかかわらず均一とする。
\[ P_2=ρL\frac{dT}{T_i}\\ dT:室内温度と「窓とカーテンの間」の温度の差(K)。\\ T_i:室内温度(K)\\ T_o:室外温度(K)\\ L:窓の高さ(m) \]ここで、 $ dT=r(T_i-T_o) $ とすると
\[ P_2=ρL\frac{r(T_i-T_o)}{T_i} \]カーテンの熱貫流率に関しては、おおむね1cm以上離れている場合には、単独で考えられるが、近すぎる場合には、間の空気層が少なくなるために大きくなる
上記の値において圧力、熱量のバランスから $ P_1=P_2、Q_o=Q_i+Q_a $ となる。
\[ P_1=P_2\\ \frac{32ηQ}{wh^2}=ρL\frac{r(T_i-T_o)}{T_i}\\ Q=\frac{ρwLh^2r(T_i-T_o)}{32ηT_i} \]熱流量についての式を変形する。
\[ Q_o=Q_i+Q_a\\ U_aLw(1-r)(T_i-T_o)=U_bLwr(T_i-T_o)+r(T_i-T_o)C_pρQ\\ U_aLw(1-r)=U_bLwr+rC_pρQ\\ \]この式に、圧力式で求めたQを代入すると、rに関する2次方程式が求められる。
\[ U_aLw(1-r)=U_bLwr+rC_pρ\frac{ρwLh^2r(T_i-T_o)}{32ηT_i}\\ \frac{C_pρ^2h^2(T_i-T_o)}{32ηT_i}r^2 + (U_a+U_b)r - U_a=0\\ 3077361\frac{h^2(T_i-T_o)}{T_i}r^2 + (U_a+U_b)r - U_a=0 \]仮に室温20℃、屋外0℃、カーテンの断熱≒単板ガラス窓の断熱、カーテンとガラスの間が2cm( $ T_i=293、 T_o=273、 h=0.02、 L=2、 U_a=6、 U_b=6 $ )とすると。
\[ 84.023508532423r^2 + 12r - 6=0 \](カーテンによる断熱寄与率) r= 0.205
コールドドラフトによるロスを含めて、おおむねガラスの1/4程度の断熱の寄与をしていることがわかる。上下左右にすきまがなく、カーテンで窓枠を密閉できるのであれば、同じ断熱性能と仮定しているため、0.5(ガラスと同じ寄与)がされるはずであるが、2cmの間隔を流れる風により、大きなロスが生じている。
間隔が10cmあるときは、r=0.051
間隔が1cmあるときは、r=0.32
間隔が0.5cmあるときは、r=0.422
間隔が0.2cmあるときは、r=0.484
このように、幅が広くなっている(間隙が大きく空気が素通りする状態では、ほとんど断熱効果はなく、逆に1cm程度と狭くなると半分程度の寄与となる。幅を2mm相当(床とのすきまでも可能)にまで減らすと、ほぼ空気の流れによるロスがなくなり、本来の断熱の性能が出て来る。
カーテンと窓ガラスの間の距離ごとに、窓面からの熱流出量と、間隙の温度をグラフに示した。カーテンのない状態では、215Wの熱流出となっていたものが、すきま5cmで195W、2cmで172W、5mmでは125Wまで低下する。5cm以上すきまがあると、1割以下の削減としかならないが、5mmでは4割減と隙間がせまいほど効果が大きいことが示されている。
この計算は、以下のシミュレータで行うことができる。
カーテンのすき間はなるべく少なくする。2cm以上間が空いていると意味がない。できれば5mm以下にすべし。
2018/01/21 Original Y.Suzuki
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