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なぜ自治体はごみ減量を呼びかけ続けるのか

 市町村は、市民などが出すごみを適正に処理する責任を持っています。市町村からの広報の中でも、ごみ収集日の案内は、もっともよく見られる内容だそうです。

 そのときに必ずセットで言われるのが、「ごみを減らしましょう」「リサイクルしましょう」という呼びかけです。それ自体大切なことではあるので、呼びかけとして違和感はないのですが、毎回くりかえし言われ続けると、面倒に聞こえてしまいます。すでに生活で工夫をしているのに、さらにごみを減らせと言われるのは、市民や事業者にとっては負担にもなりかねません。あまり言われ続けると、中には「税金を払っているのだから、出たごみを処理するのは行政のサービスとしてすべきだ」と思う人も出てくるかもしれません。

 なぜ市町村はそこまでして、市民や事業者に負担を感じさせるような、ごみ減量を言い続けるのでしょうか。

昔から言われてきたごみ減量

 ごみ減量の呼びかけは今にはじまったことではなく、昔から言われ続けてきました。

 戦後の高度経済成長の頃は、ごみの量もうなぎ登りに増加していく一方で、焼却炉や埋め立て地が足りないことから、適正に処理をすることが困難な状況となりました。足りないからといっても、焼却炉などは迷惑施設とされており、そう簡単に納得して作れるものではありません。東京では、焼却ごみの受け入れをしていた足立区が収集車の搬入を止めて、杉並区の道ばたにごみが収集されずに山積みされるという「ごみ戦争」と言われる状態にもなりました。そんな時代であれば、問題を解決する有効な手段の一つとして、「ごみを減らしましょう」という呼びかけも、十分理解できます。

 その後、日本国内では、焼却施設の整備が進み、おおむね全量を焼却できるようになりました。ただし、ごみの問題は簡単には解決できるものではなく、2000年頃には、焼却炉から大気中に排出されるダイオキシンも問題になりました。その有効な対策としては、焼却炉の改修や、ごみ減量などであり、対策を進めることでダイオキシン類の排出量はおおむね以前の100分の1以下と、大きく減らすことができました。

 リサイクルも、最終処分場の不足に困った自治体が、打開策の一つとしてはじめ、1970年代の自治体で始まったあと、全国に広まっていきました。現在ではごみ収集量のおよそ2割がリサイクルされており、分別回収も定着しています。

ごみの処理が滞っているわけではない

 では、最近のごみの量はどうなっているでしょうか。環境省の統計をみると、実は2000年ころをピークにごみの量が減り始めています。リサイクルが進んでいるという話もありますが、実は統計の収集ごみ量にもリサイクルされる分が含まれていますので、いわゆる「燃やされるごみ」の量だけでみると、2割以上の減少となっています。

 複数の焼却炉を持っている大都市では、焼却炉が足りないどころか、ごみの量が減ったため焼却炉が余ってしまい、順次閉鎖を進めている状況です。埋め立てる量が減っていることもあり、あと何年でごみ処分場が満杯になるのかという残余年数も、減るどころか、逆に徐々に長くなっている状況です。

 ごみの処理が滞っているわけではありません。そんな状況なのに、まだ「ごみ減量」が呼びかけられるというのはどういうことなのでしょうか。

 ごみに関係する別の問題

 ごみ減量が進み、施設も余るようになってきたことで、確かに処理が滞るような状況ではなくなりました。しかし、新たな問題が起こってきているのです。

 よく、環境のために省エネやリサイクルをしましょうと言われてきましたが、21世紀に入って、そんな悠長な考え方では成り立たない状況となってきました。21世紀は地球環境の時代だと言われ、地球温暖化をはじめとして、真剣に考えて舵取りをしないといけなくなっています。省エネやリサイクルを考えない会社は潰れていくような時代になっています。シリア難民の問題なども、気候変動で乾燥化が進み、食料不足になったことが大きな要因のひとつとされています。

 ごみについても、処理は滞らずにできるようになったかもしれませんが、捨てられた分だけ資源を使い続けていることには違いありません。

 現在、金属資源については、金・銀・銅・亜鉛など主要なものについては、鉱山も次々に閉鎖されています。地球全体では、過去から歴史的に鉱山から掘り出されてきた量のほうが、鉱山に眠っている金属量より多いとされています。掘り出して使うのではなく、リサイクルを前提としなければ、世界は成り立たなくなっているのです。

 森林資源についても、過去から多くの木が伐採されてきました。植林が進んでいる面はありますが、気候変動による乾燥化・砂漠化もあり、予断を許さない状況です。

 目に見えにくいところの資源は、より深刻です。海では漁業が盛んにされていますが、以前と比べると、極端に魚が少なくなっているとされています。明治の初めには北海道で大量のニシンが取れたため、「にしん御殿」と言われる豪邸が建てられるほどだったものが、徐々に取り尽くされ、どんなに網をはっても以前の100分の1以下しか水揚げがない状態となっています。

 ごみの処理自体は問題ないかもしれませんが、ごみを出していること自体が問題とされているのです。

 処分場の問題

 もっとも、ごみ処理体制自体も万全というわけではありません。

 焼却炉で燃やされたごみは、全てなくなってしまうわけではなく、約1割の焼却灰が発生します。これを最終処分場で埋め立てる必要があります。この焼却灰がくせ者で、実は大気中には放出されなくなったダイオキシン類ですが、この焼却灰の中には危険なレベルで含まれているのです。処分場に埋め立てられたあと、処分場から流れ出る汚水を処理しないといけないのですが、安全なレベルまで落ち着くのに、場合によっては100年近くかかることもあります。

 地震や大雨などで崩れてしまうと、新たな亀裂から汚染が再び始まることもあります。

 しかも処分場は、満杯になってしまったあとは、新たな場所を見つけ続けなければなりません。いくつ処分場が作られているのかわかりませんが、そんなたくさんの負の遺産を、子どもたちに残していくことになるのです。

 国の施策

 環境問題の対策は、以前とは異なりかなり真剣に進められています。地球温暖化で言えば、2016年に発効をした「パリ協定」では、21世紀が終わるまでに、世界全体で石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料が実質的に使えなくなるレベルの削減をすることが合意されています。

 資源もなくなってからでは、戦争をはじめとする大きな社会混乱を引き起こしかねません。資源価格が高騰するだけでも、経済は大きく停滞する危険があります。多少の変動があっても強靱に対応できるようにするためには、なるべく資源を使わずに社会を回せる仕組みを構築していくこと以外にはないということで、積極的な方針が定められています。

自治体にとってのごみ減量のメリット

 市町村などの自治体も、地球環境問題に取り組まないとならない時代になっています。多くの自治体で、地球環境問題にも取り組むことが方針の中に位置づけられています。ただ、本来は地域の問題を解決するために、調整役として成り立っているのが自治体です。そこで自治体でも、地球環境の問題を真剣に取り組めるよう、興味深い制度ができています。

 焼却炉はおおむね30年程度ごとに立て替えをする必要があり、自治体にとっては大きな負担となるものす。額が巨大であることもあり、市町村で焼却炉を建設する場合には、以前から国の交付金が一定割合出されてきました。

 これが2005年からは、単純に焼却炉に補助するのではなく、きちんと地域でごみ減量の計画を立てないと、補助がでなくなったのです(循環型社会形成推進交付金)。つまり、市町村としては、ごみ減量を呼びかけなければ、焼却炉が建てられない状態となっているのです。

 もっとも、単に国から言われたからというだけではなく、市町村としてもしっかり地球環境問題への対策を見据えて、自ら取り組んでいるという位置づけにはなっています。世界的な問題を、きちんと自分たちの問題として位置づけることは、環境問題解決の大切な視点です。事業者や市民も同じように、考えて取り組んでもらう必要があるなかで、率先して行政が取り組む体制となっています。

 簡単に焼却炉や処分場が作れない時代になっています。ごみを出す人が規制なく自由に出せるのは便利なのかもしれませんが、処理先が作れなければ結果的に、毎週道ばたに出されるごみを適切に搬出して処理できなくなり、地域の社会そのものが回らなくなってしまいます。それこそ、市民サービスの低下につながってしまいます。

 家庭や事業者それぞれにとっては、ごみ減量を呼びかけられ続けるのは負担を求めることになるのかもしれませんが、みなに協力してもらわないと、将来サービスそのものが提供できない状況に陥ってしまう可能性があります。周り巡って、家庭や事業者のために、ごみ減量がよびかけられているのです。

 

 


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Last-modified: 2018-05-21 (月) 23:38:51, by 有限会社ひのでやエコライフ研究所